かきたまじる

鉄は熱いうちに打て

最後のチャンス

今年も「あれ」が出てくる季節になった。皆今年こそは勝つぞ、と意気込んでいる。私はチョークを握った。
「榊さん」
「はい。私は材料を変えるべきだと思います」
材料を変える、と私は黒板に書き込んだ。
「たとえばどんな材料を使うのですか」
「そうですね……私はうどんにそこまで詳しくはないのですが、だしを変えてみるとか……」
私はだしを変える、と隣に付け加えた。
「委員長!」
榊が言いよどんでいると、隣の席に座っている氷室という男子生徒が突然声を張り上げた。委員長は当てるべきか悩んでいたが、いつも突拍子もないことを提案してくる彼の意見が、私は聞きたかった。
「氷室君」
「はい。俺は調理道具を変えるべきだと思います」
何言ってるんだこいつ、とクラスの空気が一変した。榊も驚いて氷室を見つめた。
「さっきから、材料を変えるとか、味付けをこだわるとかそういう次元の話ばっかりじゃないか。もっとこう、違うところに着眼点を置くべきだ。たとえば鍋のふたを変えるとか」
「鍋のふたでどうする気だよ」と委員長。
「だからー、ほら、老舗のお店って調理道具はずっと同じものを使っているだろ。老舗ってことはおいしいから続くの。つまりね、調理道具からだしが染み出てるというわけだ」
「ちょっと待てよ。お前は何を根拠に言ってるんだ」
誰がどう聞いても今の理論がおかしいのは一目瞭然だった。万が一、今の理論が正しかったとしても、誰が老舗の店から調理道具を用意できるのだろうか。クラス単位でやる模擬店がそんなもの調達できるわけがない。でも私は大まじめに鍋のふたを変える、と黒板に書き込んだ。

 「…結局、例年通りのうどんになってしまった」
委員長が落ち込んでいる。私は向かい側の模擬店を見た。私たちと同じようにうどんを提供しているが、私たちと違ってかなりの繁盛っぷりを見せている。
「今年こそは復讐してやるって誓ったのに」
「しょうがないって、向こうにはうどん作りのプロがいるんだから」
私たちの学校では毎年九月に文化祭を行っている。その一環で生徒らが模擬店を催すのだが、一年生のころからずっとうどんの店を構えているクラスが二つあって、いつも比べられていつも私たちが負けている。ちなみにクラス替えは三年間行われないので毎年同じメンバーで挑み、負け続けている。
「最後の年くらい華々しく勝ちたかった」
「そんな負け惜しみ言うくらいなら、うどんやめればよかったのに。この復讐鬼」
委員長の執念の凄まじさにいつしか付いたあだなが『復讐鬼』だった。
「お前、もしうちがケーキとか違うもので勝負して売り上げが向こうより多かったとしても、それは勝ったとは言わないんだ!あくまでも同じ土俵に立たなきゃだめなんだよ!」
いつになったらこのばからしい戦いは終わるのだろうか。クラスのみんなは、ばからしいと思いつつも楽しみながら、復讐鬼に手を貸しているのであった。