傘がない。
そのことに気がついたのは教室を出てからのことだ。いつからなかったのだろうか?僕は今日1日の行動を思い出す。まず、学校に来た。自転車を停めて、教室に向かった。今日はどこで講義を受けたっけ。講義が終わってからサークルボックスに行って…もう、傘は持ってきていなかったような気がする。
自分の行動をもとに傘を置き忘れていそうな場所に行くが、どこにも傘はなかった。盗まれたのかもしれない。肩を落とした。
一週間後、傘は見つけられた。図書館にぽつんと忘れ去られていた。
……ということが、かなり前にあったのだが、傘を忘れるというのは、雨が降っていて、屋内に入り、屋内から出て雨が止んでいる時高確率で発生すると思うのだ。
だから傘にリードとかつけるとかお札くっつけるとか、効果はありそうだが、見た目的に実行する気になれない対処法はさておき、自分なりに対処法を考えた。
それはずばり傘に愛着を持つことだ。
傘に名前をつけよう。そうだ、ポリデントとかどうだ。もし、だな、よく知らない女と居合わせて居心地悪い時に何気なく、僕が「ポリデント忘れた」と言う。女が「え、ポリデントってなに」みたいな具合で話が始まって、居心地が良くなったりするんじゃなかろうか。で、「わたしサトコって言うの、あなたは」
「僕は田中って言うんだ、よろしくね」
とちょっとした知り合いになれるかもしれない。
それからその後、2人がひょんなことで付き合い始め、僕が出来心で浮気したことに立腹したサトコが、包丁持って僕に襲いかかることもあるかもしれない。
僕は傘を盾のように広げてこう言うのさ。
「サトコ!ポリデントだ!」
サトコの動きが止まる。
ポリデントってなにかしら、そうだわ、私たちが出会うきっかけを作ったポリデントだわ……
「田中さん!ポリデント…そんな……!」
みたいな感じで、なんとかなるかもしれないじゃないか。
傘に名前をつけるねぇ。いいじゃないか、うん、うん。
……そんなことを考えていたら、電車に傘を置いてきてしまった。
という話を、私は、考えていました。
written by iHatenaSync