かきたまじる

駅メモ・リヴリー・ノベルゲームが好き

いま、迎えにゆきます

人ならきっと「どこか遠くへ行きたい」というような、希望の形をした願望が、きっとあるはずだ。何?そんなものはない?馬鹿言うな。そんなことはない。絶対あるはずだ、断言する。私にはある。どこか知らない所へ、あてのない旅をしたいという、そういう希望がある。そこでこの冬、その思いを実行することに決めたのだった。


 さて、どうするか。どこか知らない所、といっても、海外経験ゼロの私が、突然アフリカに行くとか、そういう突拍子もないことはしたくない。外国は言語も分からないし(ちなみにTOEICはスコアがたったの200ちょっとしかないのだ)、治安も日本とはかなり違うだろう。だから、日本国内にしよう。移動手段は、徒歩、自転車、電車、飛行機など、いっぱい考えられる。どうしたものかとずっと考えていた。できるだけ旅情に浸りながら行きたい。遠くへ行きたい。徒歩や自転車では旅情こそ味わえても距離がない。飛行機では旅情がない。ならばどうするのか。うってつけのものがあるんだ。

 ところで、唐突な話をひとつ。私はこの話をしはじめた最初からずっと駅にいるのだ。駅で何してるのかと聞くのは今はやめてほしい。後で言うから。だから、聞かないでいただきたい。
さっきからずっと鳴っているこの小うるさい腹を黙らせようと思って、そこのコンビニでオニオンチーズトーストという新発売のパンを買ってきた。それを食べてから話の続きをしようか。すると、誰かが私に声をかけてきた。誰だ、とおもむろに顔をあげた。そこには、私の大学で同じゼミに所属している室氏がいた。やあ、と挨拶をされたので、同じく返す。私はパンの包装をはがした。私は室氏と、先週の木曜日にゼミの討論で丁丁発止と渡り合った。激しい討論だった。そうでなくてもこいつと一緒にいるとすぐ喧嘩腰になってしまう。そう、私はこいつが嫌いだ。室氏とは一言二言簡単に話して別れた。なんでも彼は、これから横浜へ向かうそうだ。私は知らないが、音楽のフェスティバルがそこであるらしい。
何を話してたんだっけ。ああ、そうだ。旅の話だ。ここを見ろ。今私はパンを食べ終わって、みどりの窓口の前にいる。そこには、チラシがいくつかおいてある。その中の一枚を私は手に取った。

『私はいま、遅い春を迎えに行くところです』

という言葉が一言、写真に添えられていた。それは『青春⒙きっぷ』という特別な切符を紹介するチラシだ。ざっくり説明すると、これは、全国のJRに5日間乗り放題の1万2千円くらいの、期間限定販売されている切符である。私はこの冬にこの切符で行けるだけ遠くへ行くつもりであった。目的地は小倉というところだったはず。先ほど言っていた、うってつけのものというのはこの切符のことである。この切符で行けるところまで行く。すなわち、遠くへ。電車で旅情に浸りながらね。

さあ、もう、勘のいい君なら分かっているはずだ。私が駅にいる理由が。私の旅はここから始まるのだ。今から私は、私の遅い春を迎えに行くのだ。