かきたまじる

鉄は熱いうちに打て

お弁当

お昼になった。腹が減った。僕はお弁当を取り出した。今日から給食はなくて、毎日、昼はお弁当だ。高校ではお弁当が当たり前らしい。ふと僕は何年か前、まだ僕が小学生だった頃を思い出した。
 小学生のときは毎日昼になると給食が当番によって運ばれてきていた。おいしそうなにおいは僕の鼻をいつも刺激した。おいしそうなデザートが出たらデザートを巡って喧嘩が起こった。そんな給食を時々食べないやつがいた。石田由美と言った。代わりにお弁当を持参してはそれを食べる。遠足でもないのに、と僕は思った。
彼女はクラスの中でも、何かと弱い者の味方に立ち、姉御ぶっていたところがあった。僕はどっちかというと、弱い者いじめする方だったので、由美とはいつも対立していた。由美と喧嘩が起こると、たいがい栗坂先生が仲裁に入る。栗坂先生はクラスの担任で年配の先生だ。おばあちゃんみたいな印象があるが、一回間違えてそう呼んだら烈火のごとく怒った。理由は、せめて間違えるならお母さんと呼べ、だそうだ。
由美の話に戻る。いじめる側対いじめられる側の味方みたいな感じで表向きは対立していたものの、実をいえば由美のことが僕は気になっていた。それもあって、由美が出てくるとあまり強く言うことができないでいた。ある日、そのことを友達に指摘された。
「お前姉さんが出てくるとすぐ引き下がるよな。もしかして姉さんのこと好きなの」
由美はいつも姉さんと呼ばれている。とにかく図星だったのだが、体裁が悪いので言い返した。
「そんなわけないだろう」
「でもいつも姉さんには弱いじゃないか」
「そんなことない。じゃあ今度姉さんが来たらお弁当を隠してやる」
そんなことがあってぼくは由美のお弁当を隠すことになった。給食の時間に由美が「お弁当がない」と騒ぎ始めた。周りの子が一緒に探していたがお弁当は見つからず、由美は昼ご飯を食べることができなかった。僕は由美に一矢報いたと喜ぶ気持ちと罪悪感に苛まれた。
その日の放課後、由美のお弁当をどうしようと途方に暮れていると、栗坂先生が僕の肩をつついた。びっくりして振り返ると、先生は怒っていた。
「石田さんにはアレルギーがあって給食が食べられないこともあるの。だからお弁当を隠したら石田さんは困るの」
先生は職員室まで僕を連行した。石田由美もそこにいた。僕は焦って由美に弁当を差し出して謝った。由美は僕の顔に目もくれず、
「お腹すいた」
と弁当を食べ始めた。職員室の前でだ。僕はそんな由美を目の前にどうしようもなくあたふたしていた。

お弁当をつつこうと箸をつかんだところで女子がひとり教室に入ってきた。僕のところにやってきて、一言、僕に話しかけてきた。
「あの時のこと私まだ許してません」
食べようとしたお弁当を横からひったくっていったのは間違いなく石田由美だった。僕は由美を追いかけ、教室を飛び出した。
終わり