かきたまじる

駅メモと日常

少女よ謎を解け

スケジュールを手帳で概観し、明日はこういうことがあるからこうしようと予定を立てる。いわゆるPDCAサイクルを毎日行いながら生きている。もちろん、そうした決まり決まった行動というものは、自分の将来だとか未来だとか生真面目でお堅いものにとって大切だ。

しかしそれだけではつまらない。毎日、あるのだ。きっとあるのだ。まったく自分にとって想定外であることが。それは明日告白されてしまうかもしれないだとか、大地震が起こるかもしれないだとか、そういう突飛なものではなくて、ちょっとしたことなのだ。ちょっとしたことだけど、自分にとっては完璧に想定外な出来事なのだ。

それはよく晴れた、梅雨も逃げ出してしまった晴天の日のことであった。レポートを書かなくてはいけなかったので、図書館を訪ねた。図書館で本を探す。本を探して、見つかったにもかかわらず、近くのまったく関係ない、犯罪について書いてある本をむさぼり読んで30分無駄にした、ここまでは想定内のことである。

想定外なちょっとしたできごとはここから先の話だった。探している本は、福祉についての本なのだ。もちろん、その本の周りにあるのも同じように福祉について論じられた本である。それが、当たり前、の…はず、だった。

あるのだ。一冊だけ妙な空気を放った本が。その本だけ薄っぺらくて、気になって手にとってみたら「カゲロウデイズ」と書いてあった。福祉のことなんてなにひとつ書いてない、なんでお前ここにいるんだ?!と首をかしげるしかなかった。呆気にとられてパラパラと眺めてしまった。
でもこの図書館、最近アニメや漫画に関係した本をたくさん入れているみたいなので、きっと誰かが、福祉のレポート書いているけど面白くないや、好きな本よもう、とかいってどっかから持ってきたこの本をうっかり同じところに持ってきてそのまま忘れているのかも。…ところが、さらに想定外だったのが、この本バーコードがない。いや、本を売るときにピッってやるあのバーコードじゃなくて、図書館の本についているバーコードのことだよ。そして、本の所蔵場所を示す番号も何もなかった。

そう、この本は図書館所蔵の本ではないのだ。つまり誰かが外から持ち込んだ本である可能性が極めて高い。一体誰だ、誰なんだ。もしかして、「このんなお堅い本だらけの場所、つまらないから異色な本でも置いてやろう」なんて考える酔狂な奴が、自分以外にいるというのか。いや、自分でもさすがにやらない。

とはいえ大概の人間は、目的がないことはやらない。「なんとなく」やったなんてほざく人もまあいるといえばいるが、だいたい何か理由が絶対あるのだ。たとえば意味もなくLINEスタンプだけ送ってくるのは一見意味がないように見えて、実はそうではなくて、かまってほしいという意味だとか、そういうふうに人間できている。

だからこの本は意志を持って置かれたはずなのだ。誰かが。なぜ?どうして?レポートを書くために訪れたはずが、いつの間にか謎解きミステリーの様相を醸し出しているし、たった今字数が1241文字を突破した、そういやこのレポート2300字程度だったっけ、おお筆が止まらない止まらない、字数は足りそうだ、でも内容全然関係ない!!

想定外すぎる。こんなの想定外すぎる。やはりあれだ、平凡に考えると、うっかり自分の本を図書館に置いてきてしまったという説が高そうだ。しかし、堅い本だらけのここにまったく関係のない一冊を置くことで妙な感じを出そうとか考えているかもしれない。

あれやこれやと可能性を考え、文章にしていたら、2300字を軽く突破した。
そしてレポートは提出期限1日前、何一つ書いてない。ああ、これはやばい、とパソコン前で脱力する。そうだ、こいつ出してしまおう。と思ったのは自然の流れというやつだ。教授だって、「どうせ学生のレポートなんかどれも似たり寄ったりなものが来るだろう。読んでいて退屈だ」なんて考えているところに、こんな変なレポートが来たら完璧に想定外なはずだ。それできっと単位をくれるはずだ。


そして、結局レポートをそれで提出してしまい、当然のごとく評価最悪、単位を落とし、おまけに必修だったものだから、来年再履修が決定してしまい、一晩中泣き続けた女の子が私なのだ。一冊の本に狂わされる毎日、これもまた完璧に想定外だった。
written by iHatenaSync